DIARY 写メ日記の詳細

「残」のつく言葉が好きです
正確に言うと、感覚が「残」ることをあらわす語
たとえば「残像」。たとえば「残響」。たとえば「残り香」。「残影」なんて語もあります(「おもかげ」の意)
ぼくはもう二十年以上「記憶」について考えていて、小説でも毎回、題材のひとつとして取り扱ってきました
いちばん好きな映画は『ニュー・シネマ・パラダイス』だし、いちばん好きな小説は『グレート・ギャツビー』です(どちらも「記憶」あるいは「過去」について語った作品)
ぼくは自分の生まれ育った町が好きで、二十二歳まで暮らしていたその町をときどき訪れるのですが、毎回そこへ行かないと思いだすことはなかったであろうささいな記憶がふっとよみがえったりするんですね
それと似た話で、舞台役者は「セリフを忘れた」と思っても、正しい立ち位置に立った瞬間、自動的に言うべきセリフを思いだしたりします
「場」にも、記憶を呼びさます物質が微粒子状で残っているのかもしれません
視覚は「情報」として蓄えておきやすい反面、記憶を喚起する力は嗅覚や触覚ほどではありません
後者はより肉体的な感覚だからなんでしょうね
単語ひとつで記憶が鮮明によみがえることはあまりないのに、むかしよく聴いた曲を耳にすると、ぱっと映像がうかぶのはふしぎです
同じ聴覚でも、音楽は単なる「情報」ではなく、肉体に浸透するなにかなのでしょう
むかし好きだったひとのつけていた香りと、町でふいに出会って胸がしめつけられる、これもよく聞く話です
映画『ブロークバック・マウンテン』では、死んでしまったかつての恋人の部屋を訪れた主人公が、なくしたと思っていた自分のシャツを包みこむように恋人のシャツがハンガーにかけられているのを目撃し、思わず強く抱きしめて残り香をかぐといううつくしいシーンがあります
村上春樹の短編を原作とする映画『トニー滝谷』では、亡くなってしまった妻が残した大量の洋服が保管された部屋で、虚無の表情をうかべる主人公が非常に印象的に描かれています
また、川端康成の『雪国』には、こんなエロティックな文章があります
この指だけが、これから会いに行く女をなまなましく覚えている。(中略)
この指だけは女の触感で今も濡れていて(中略)
鼻につけて匂いを嗅いでみたりしていた
んー、変態ですねえ
でも案外人間って、そういうものですよね。人間だって動物ですから
脳に関しては、まだはっきりとわかっていないことが多く、記憶のメカニズムもすべて解き明かされたわけではありません
「記憶は消えない」なんて話もよく聞きます。すべての記憶は蓄積されていて、ただ、思いだすことができないだけなのだと
無数にタンスがならんでいて、スムーズに中身をとりだせる引き出しもあれば、錆びついていてまったく動かせない引き出しもある。そんなかんじでしょうか
さて。とりとめがなくなってきたので、そろそろまとめます
これを読んでくださっているあなたに、いつかお会いすることができたら、こころの片隅にでもいいから、すてきな残りかたができたらいいなと思っています
視覚・聴覚・嗅覚・触覚、そのすべてを使って