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女風小説『雨の音』(朗読あり)
文谷 蓮 2025.10.12
女風小説『雨の音』(朗読あり)

【まえがき】

きのう、ふとんの中で聞く雨の音がなんだか心地よくて、この掌編を思いつきました

縦書き版(画像)と朗読
https://x.com/FumiyaRen_amen/status/1977161806088134830

以下、横書き版です

縦書きでも横書きでも、あるいは音声だけでラジオドラマ感覚でも、お好きなかたちでたのしんでいただけたらうれしいです

【女風小説まとめ】※一話完結です

『わたしたちを閉じこめた箱』

https://kaikan.co/tokyo/397/26029/diary/481791

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『雨の音』

休みの日にふとんの中で聞く雨音が好きだ。

目をつむると自動的に、ふた月まえの箱根の朝がよみがえった。180分をこえて彼の時間を買うのはあのときがはじめてで、いつもよりラフなシャツ姿も、みごとなハンドルさばきも、なにもかもが新鮮だった。

たっぷりと時間をかけて愛してもらったあと、あたたかい泥沼に沈みこむよう眠りに落ち、目をさますともう朝だった。彼は窓辺に立ち、コーヒーカップ片手に外の景色を眺めていた。
「おはよう」
寝具のこすれあうわずかな音を聞きもらさず、彼がふりかえって言った。
「おはよう」わたしは上体を起こし「雨?」とたずねた。
「うん」
「この音、好き」
しとしとと降るやさしい雨の音が、わたしたちを世界でふたりきりにしていた。
「僕も」
わたしが浴衣をはおってとなりに立つと、彼はくもった窓ガラスに人差し指をすべらせた。遠くのほうにぼやけて見える信号が、青から黄、黄から赤へとその色を変じた。
「手品みたい」
窓のむこうとこの部屋とで、同じ時間が流れているとはとても信じられない。
「手品か。きみらしい感想だ」と彼はやさしくほほえみ「僕は窓ごしに雨の町を見ると、いつもソール・ライターの写真を思いだす」とつけくわえた。
「ソールライター」
人名であることさえ知らなかったわたしは、幼児のようにおうむがえしをする。
「ニューヨークの偉大な写真家だよ」
と、彼はソール・ライターについて説明をしてくれた。なにかを説明するときの彼の顔が、わたしは好きだ。

気がつくと、ふとんの中で40分もの時間が経過していた。あの小旅行によって、彼のことを思いだす「スイッチ」がいっぺんに増えてしまった。白のオックスフォードシャツ、助手席に座ること、うろこ雲、サービスエリア、浴衣、黄色い満月、そして窓ごしに聞く雨の音。
「おはよ。きょうはあのときみたいな、静かな雨だね」
送ろうとしてやめた。彼はきっと返事をくれるだろうが、予約の問い合わせをしたときとのほんのわずかな温度差に、いまは耐えられそうにない。
あのひととあまり長い時間をすごすのは、危険かもしれないな。もうお泊まりはなしにしたほうがいい。ベッドからようやく起きあがりながら、そう考えた。

次は、240分でがまんしよう。

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